国連平和維持活動(PKO)と「駆け付け警護」

国際法学会エキスパート・コメント No.2016-9

酒井 啓亘(京都大学大学院法学研究科教授)

脱稿日:2016年11月15日

1.はじめに

2016年3月29日に施行されたいわゆる平和安全法制のうち、改正された国際平和協力法では、国連平和維持活動(PKO)に参加する日本からの部隊にいわゆる「駆け付け警護」の業務が認められています。これに基づき、日本政府は、同年11月15日の閣議決定により南スーダン国際平和協力業務実施計画の変更等を決定し、現在南スーダンに展開している国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)の部隊として同月に現地に派遣される陸上自衛隊の交代部隊に「駆け付け警護」を認める方針を打ち出しました。
「駆け付け警護」とは、国連PKOに参加する自衛隊の部隊が、自己とは離れた場所で武装勢力などに襲われた国連や非政府組織(NGO)などの要員や関係者を、武器をもって助けに行く任務です。状況から見て保護しようとする人たちの生命や身体に危害が及ぶ可能性が高いことから、そうした人たちを助けに行く自衛隊の部隊には、事態に応じて合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができることになります。
この「駆け付け警護」という用語は、実は日本の国内法制度に特有の用語であって、国連や国連PKOで用いられている用語というわけではありません。このことは、国連PKOがどのような活動なのか、そしてそうした活動に日本が参加する根拠となる日本の国内法令が国連PKOとの関係でどのような規定内容になっているのか、ということと結びついています。そこで、ここでは、まず国連PKOの役割を概観して国連PKOにおいて実力行使(軍事力)がどのように使用されているのかを確認した後、日本の自衛隊が国連PKOに参加する国内法令上の根拠とその実績、そして「駆け付け警護」が認められるための条件についてみていくことにしましょう。

2.国連PKOの役割と武力行使

(1)冷戦期における国連PKOと活動原則

1956年のスエズ動乱をきっかけに登場した国連PKOは、紛争当事者の同意を得てその間にいわば緩衝材のように割って入り、武力衝突を鎮静化させて大規模な武力紛争が生じないようにしながら、和平の実現に向け紛争当事者間において信頼が醸成される環境をつくることを主な目的とした軍事活動でした。具体的には、紛争当事者の部隊の停戦状況を監視したり、部隊の引き離しを確保してこれを監視したりすることを主たる任務とする活動で、自らは中立的な立場に立って紛争当事者とはならず、その任務を円滑に遂行するためにも紛争当事者の同意を得て活動するとともに、紛争当事者にできる限り危害も加えないことが活動の条件だったのです。このため、この時期の国連PKOは、紛争当事者や国連PKOが展開する現地の領域国、そして国連PKOに部隊を提供する国連加盟国などがその国連PKOの現地展開と活動内容に同意をしていること(同意原則)、現地の領域国の内政には干渉せず、また紛争当事者に対しては中立的な立場に立つこと(中立・公平原則)、並びに武力行使を自己の安全確保のためと任務遂行に際して自己を防護するための必要最小限度とすること(自衛原則)といった活動上の原則に基づいて現地での活動に従事していました。注目されるのは、国連PKOが、紛争当事者に何らかの行為を押し付ける強制的な活動ではないということです。したがって軍事力も、任務を遂行する際も含め、あくまで自己の安全を確保する自衛のためにのみ用いられていたのです。
国連PKOは国連憲章上に明記された活動ではありません。国連憲章が予定していた集団安全保障体制が機能しないために、主に国家間紛争において武力衝突の鎮静化と紛争の解決を促進する実践上の必要から考え出された活動であり(伝統的PKO)、上記の活動原則はそうした任務遂行のために必要とされる条件を表したものでした。したがって、国連PKOは、現地の紛争の性質などに影響を受けることで実践を通じ発展してきた活動といえます。このことは、PKOの派遣対象となる紛争次第で国連PKO自体の任務やその活動原則も変化することを意味します。実際、冷戦後の国連PKOは、伝統的PKOとは異なる役割を求められることになっていくのです。

(2)冷戦後の国連PKOにおける武力行使の拡大

冷戦後の国連PKOは、1990年代前半のソマリアや旧ユーゴスラビア紛争における活動の失敗を理由に、1990年代後半に停滞の時期を迎えました。しかし、2000年に国連が公表したいわゆるブラヒミ・レポートは、国連PKOのこれまでの経験を踏まえ、平和維持活動に、紛争予防と平和創造、さらに平和構築といった活動を有機的に結び付けた国連平和活動を提唱して、その後の国連PKOの再活性化に大きな影響を与えることになります。その結果、国連PKOの任務は、停戦や軍の撤退監視のほか、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)や治安部門改革(SSR)、選挙、人権、法の支配等の分野での支援、政治プロセスの促進,文民の保護などにも拡大してきました。
国連PKOのこうした多機能化は、展開対象となった紛争が冷戦期と異なる性格を有することが多くなり、その和平プロセスや紛争処理の過程に国連PKOも関与せざるを得ないようになったことが大きく作用しています。つまり、冷戦後にPKOの派遣対象となる紛争が主として内戦の性格を帯び、PKOにより維持されるべき「平和」の内容が単に武力衝突のない状態だけでなく、武力紛争の原因となる経済的社会的その他の要因の是正までも含むようになる一方、こうした紛争の舞台となった国家が領域統治について十分にその能力を果たすことができず、国内の一部では国家機能が事実上麻痺するような事態もみられるようになりました。このため、現地に展開する国連PKOが停戦監視のような役割だけでなく、国際社会の他の関係機関とともに領域国の再建事業に乗り出すことになったのです。
このように多様化した役割を担う最近の国連PKOの特徴として、シエラレオネ、リベリアコートジボワールコンゴ民主共和国マリ、南スーダンなどでは、国連安保理決議により国連憲章第7章に基づく行動が認められてきました。国連PKOに付与された多様な任務、たとえば現地の治安維持、紛争当事者の部隊の武装解除などを実効的に遂行するための手段として、武力行使を含め、任務の遂行に「必要なあらゆる措置」が認められているのです(「強化された(robust)」PKO)。そうした任務のなかでも特に重視されているのは、紛争当事者となっている武装集団の攻撃からの文民(一般市民)の保護です。武装集団の武力による攻撃から文民を保護するには、国連PKOの側も、場合によっては武力によって対処するほかありません。このため、「強化された」PKOでは、「差し迫った身体的暴力の脅威の下にある文民」に保護を提供するために「強力な(robust)」手段が認められたのです。日本で問題となっている「駆け付け警護」も、最近の国連PKOではこのように文民の保護が重要な任務となっているという状況を踏まえて理解しなければなりません。
ただし、2008年に国連PKO局が策定したキャップストーン・ドクトリンでも確認されているように、最近の国連PKOでも活動3原則(同意・公平・自衛)は重視されており、日本政府もこの3原則は現在でも維持されているという立場をとっています。「強化された」PKOの任務やその手段の強化については、主要な紛争当事者があらかじめ停戦合意などを通じて同意していることになっていますし、また、停戦合意や和平合意に違反するような行為をどの当事者が行っても、「強化された」PKOでは平等に、しかも積極的に対処することが求められており、その限りで当事者に対する公平性・不偏性が維持されているということができるでしょう。このように「強化された」PKOでは、PKOの活動原則を基本的に維持したまま、任務の多様化とその実効的実現のための手段の強化(軍事力の強化)が図られているのです。こうした最近の国連PKOの傾向を踏まえたうえで、次に日本の自衛隊が国連PKOに参加した経緯を見ることにしましょう。

3.自衛隊の国連PKOへの参加と国内法制の整備

(1)国連平和協力法成立以降の国連PKOにおける自衛隊の「武器使用」

日本国憲法は9条により「武力の行使」を禁止しており、軍事活動である国連PKOに日本の自衛隊が参加して活動する場合にも、こうした憲法上の制約が及ぶとされています。ですから、自衛隊による実力行使については、国連PKOのような業務を遂行するにあたって「武力の行使」は認められず、自衛隊法上、警察官職務執行法の関連規定が援用されるかたちで、「武力の行使」のような烈度を伴わない「武器使用」の範囲にとどまることになります。ただし、こうした「武力の行使」と「武器使用」の区別はあくまでも日本の国内法令上の区別であって、国際法上の区別ではありません。
日本の国連PKO参加にとって画期となったのは国際平和協力法が制定された1992年でした。この法律によって国連PKOや人道的な国際救援活動に自衛隊を含む要員の派遣が可能となったからです。当時、自衛隊が海外の軍事活動に参加することに対して批判もあり、「武力の行使」を禁止した憲法9条と国連PKOにおける自衛隊の活動とが両立するかについても疑問の声が上がっていました。自衛隊が行う実力行使の中で、「国または国に準ずる組織」との間での戦闘行為は「武力の行使」にあたるため憲法9条に反しますが、自分自身を防護する目的や任務を遂行する目的のため、現場の事態に応じて合理的に必要と判断される限度での「武器使用」は認められるとされています。このため政府は、停戦合意の存在などを自衛隊派遣の条件としたPKO参加5原則を基本方針として決定し、自衛隊による「武器使用」は要員の生命等の防護のために必要最小限のものに限られるとして、国連PKOでの自衛隊による職務遂行中における「武器使用」が憲法9条と抵触しないようにしました。つまり、紛争当事者等による国連PKOの受入れ同意などPKO参加5原則の条件が満たされていれば、「国または国に準ずる組織」が国連PKOにおける自衛隊の部隊と敵対するかたちで登場することはなく、現地で自衛隊が憲法9条にいう「武力の行使」を行う状況にはならないとされたのです。
もっとも、国連PKOに参加した自衛隊による「武器使用」は、国連PKOの実行から確認されている自衛に関する国際基準のうち、部隊や個人の自衛のための実力行使にあたるもの(狭義の意味での自衛)に限られ、任務の防衛や任務の遂行のための実力行使(広義の意味での自衛)は、ここでの「武器使用」に含まれませんでした。憲法9条と抵触しないためには狭義の意味での自衛の範囲に「武器使用」をとどめることが必要だと考えられたからです。国際基準における広義の意味での自衛においては「国または国に準ずる組織」の不存在という日本独自の基準は前提となっていません。この基準を前提とする自衛隊の「武器使用」を、国際基準でいう広義の意味での自衛と同じように考えることはできなかったのです。
1992年の国際平和協力法制定後、カンボジアモザンビーク、イスラエルと国境を接するシリア領のゴラン高原東チモールハイチなどで自衛隊が国連PKOに参加する機会が増え、それによる経験も踏まえて「武器使用」の範囲を広げるように法改正が行われています。たとえば1998年には「武器使用」が要員個人の判断から原則として上官の命令による判断となるように国際平和協力法が改正されましたし、2001年の同法改正では職務を遂行するに際して「自己の管理の下に入った者」も自衛隊の「武器使用」による防護の対象に加えられました。しかし、こうした「武器使用」による防護範囲の拡大は、日本政府によれば、「自己保存のための自然権的権利」としての自衛の範囲内であり、国際基準でいえば狭義の意味での自衛にとどまります。2015年の改正国際平和協力法において導入された「駆け付け警護」も「武器使用」による防護範囲が拡大されていますので、次にこの点を中心に見ていくことにしましょう。

(2)改正国際平和協力法における「駆け付け警護」の位置づけ

すでに述べたように、「駆け付け警護」という用語は日本に特有のものですが、国連PKOに関連する日本の国内法令に「駆け付け警護」という用語は出てきませんし、その定義もありません。ただ、2015年に改正された国際平和協力法では、国際平和協力業務の内容を説明する中で、「防護を必要とする住民、被災民その他の者の生命、身体及び財産に対する危害の防止及び抑止その他特定の区域の保安のための監視、駐留、巡回、検問及び警護」(3条5号ト)のほか、国連関係者や、国際機関・NGOの職員、業務上交流のある現地邦人といった「活動関係者」の「生命または身体に対する不測の侵害又は危難が生じ、又は生ずるおそれがある場合に、緊急の要請に対応して行う当該活動関係者の生命及び身体の保護」(同ラ)という定めを設けており、これらが「駆け付け警護」に関係します。そして、こうした業務を遂行する際には、活動関係者等の「生命又は身体を防護するためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で」「武器を使用することができる」権限も改正国際平和協力法の26条で新設されました。このように、国際平和協力法における「駆け付け警護」は、防護を必要とする現地住民や避難民、活動関係者等の生命及び身体を、場合によっては「武器使用」を通じて保護する業務としてとらえられているのです。
日本政府の解釈によれば、こうした「駆け付け警護」のための「武器使用」も自己保存のための自衛の範囲内で行われます。国際平和協力法上、この業務における「武器使用」が憲法9条に違反する「武力の行使」にあたらないように、「武器使用」が「国または国に準ずる組織」に対して行われることがないようにしなければなりません。このため、「駆け付け警護」が行われるには、国連PKO参加5原則が満たされていて、しかも自衛隊の業務が行われる期間を通じて派遣先の国と紛争当事者の受入れ同意が安定的に維持されると認められることを条件とする点が日本政府により強調されています。つまり、こうした条件が確保されていれば、「駆け付け警護」という業務の遂行に際して「武器使用」により相手に危害を与えても、自衛官が戦闘行為を行うようなことや紛争に巻き込まれるようなことは起こらないという趣旨です。
こうした「駆け付け警護」における「武器使用」の国内法上の位置づけは、国連PKOの自衛に関する国際基準に照らした場合、どのようにみることができるでしょうか。「駆け付け警護」は文民を保護する国連PKOの任務の一部とみることができますから、国連PKOの国際基準によると、その際の実力の行使は任務の防衛を目的とした広義の意味での自衛に該当すると考えられます。そうだとすると、自衛隊の「武器使用」は「駆け付け警護」の場合も―防護範囲は拡大するものの―自己保存のための自衛であるから国際基準にいう狭義の意味での自衛にとどまるという日本政府の解釈は、国連による国際基準の適用と食い違う部分が出てくるようにみえます。国連PKOの活動に係る国際基準は条約に規定されたものでもなく国連加盟国にとって法的な義務ではないので、この場合の実力の行使に関する国際基準と国内基準にずれがあっても法的に問題があるわけではありませんが、2つの基準が整合的に解釈・適用されることが実践的には望ましいことは言うまでもありません。
いずれにしても、国連PKOに派遣されている自衛隊の部隊に対して実際に「駆け付け警護」の業務が認められるかどうかは、PKO参加5原則や関係者の受入れ同意に関する上記のような条件が当てはまるかどうかが決定的に重要となります。最近の南スーダンの情勢が注視されてきた所以ですが、今後も国連PKOに自衛隊を派遣し、さらに「駆け付け警護」の業務を付与するということであれば、その都度それぞれの現地の情勢について正確で的確な判断が求められるということになるでしょう。

4.おわりに

これまで述べてきたように、最近の国連PKOは、付与された任務を実効的に実現するために「強力な」手段を用いることが認められるようになってきました。その任務には、紛争で被害を受けた現地住民や避難民、和平プロセスの実現に努力する各種国際機関やNGOの職員等を保護することも含まれており、現地の情勢次第では、そうした任務の実施に向けて、広義の意味での自衛や憲章第7章に基づく行動として武力を行使することもあり得るのです。こうした「強化された」PKOが現在では国連PKOの主流となっており、日本が参加する国連PKOも「強力な」手段を携えたPKOを想定しておくことが必要でしょう。
もちろん、このような手段を認められた「強化された」PKOに参加するからといって、部隊が必ず憲章第7章に基づく行動のような武力行使を求められるわけではありません。各国から参加する部隊は、自国の国内法令の制約に応じて、その範囲内での活動を行うことが認められています。したがって、日本の自衛隊が憲法9条による制約を前提として参加することは、コンゴ民主共和国での「平和執行」型の部隊(「介入旅団」)のように国連PKOの活動原則が排除されるような例外的な事例を除けば、「強化された」PKOの場合でも法的には十分可能なのです。
ただ、国連PKOの武力行使に関する国際基準に照らした場合、二重の意味において、日本は国連PKOにおける自衛隊の実力行使を狭く限定しているということは、あらためて指摘しておかなければなりません。第1に、国連PKOでは文民を保護するために「必要なあらゆる措置」を国連憲章第7章に基づき認められる場合があるのですが、日本の自衛隊にはそうした憲章第7章に基づく措置としての武力行使は国内法上認められていないということです。また第2に、国連PKOでは任務遂行に際しての自己に対する危害に対して広義の意味での自衛として対応することができますが、自衛隊の部隊の場合、「駆け付け警護」という業務を遂行するにあたって行われる「武器使用」が「国または国に準ずる組織」に対する実力の行使であってはならないという条件で制約されていることから、国連がいうところの広義の意味での自衛よりも狭い範囲で行われるということになるのです。
こうした国際基準と異なる国内基準が現場で適用されるということは、自衛隊のみで活動する場合はともかく、他国の部隊とともに活動する際には作戦上難しい問題を生じさせることが考えられます。今のところ、自衛隊は施設部隊によるインフラの整備を中心とした業務を行っていますが、「駆け付け警護」のような業務を他国の部隊と協働して行うような場合には、武器使用基準について関係者間で十分な情報交換を行い、相互の理解を深め、不測の事態が起こらないような手当てが求められることになるでしょう。