同性婚をめぐる国際私法上の課題~外国で締結された同性婚は日本でも有効なのか

国際法学会エキスパート・コメントNo.2020-1

中村 知里(関西大学助教)
脱稿日:2020年1月7日

 

1. はじめに

 2019年2月、同性婚を認めない民法や戸籍法の規定は憲法上の権利である婚姻の自由を侵害し、不当な差別的取扱いをするものとして、国に対して損害賠償を求める訴えが提起されました。ここで問題とされているのは、同性カップルが日本の民法に基づいて婚姻し、日本の戸籍法に基づいて婚姻の届出をすることができないということです。

 ところで、日本における同性カップルの保護に関する問題は、日本法に基づく同性婚の可否だけではありません。同性婚が認められている外国で外国法に基づいて同性婚が締結された場合に、その同性婚が日本において有効なものと認められないのかという問題もあります。先の同性婚訴訟でも、ドイツで婚姻を締結した国際的な同性カップルが原告となっているようです。

この問題の前提には、外国で有効に婚姻が締結されていたとしても、それがそのまま日本において承認されるという考え方はなお一般的ではないということがあります(ただし、外国の公的機関により形成された身分関係を承認の対象とすべきとする見解も、有力に主張されています)。つまり、外国で締結された婚姻も、その婚姻が成立しているかどうかについて、改めて日本の立場から判断されることになります。ただし、日本において同性婚の有効性を考える際に常に日本の民法が適用されるのかというと、そうではありません。国際的な同性婚については、まず国際私法により、その同性婚に適用される法(準拠法)がどこの国の法なのかを決める必要があります。同性婚を認める国(例えば、オランダ、ベルギー、ドイツなど)の法が準拠法となる場合には、日本においても同性婚が有効に成立したものと認められうるでしょう。これに対して、同性婚に適用される法が日本法のように同性婚を認めていない国の法である場合には、その同性カップルが同性婚を認めている国で婚姻を締結していたのだとしても、日本の視点からは婚姻が無効になります。同性婚が無効となれば、一方当事者が死亡した場合に他方当事者が相続人になれないといった影響を受けることになるでしょう。

 このように、外国で締結した同性婚の日本における有効性という観点では、同性婚の成立に適用される準拠法がどこの法になるのかが重要となります。そこで、本コメントでは、国際私法の観点から、同性婚が日本においてどのように扱われるのか説明します。この問題については、現状、確立した判例や支配的な学説があるわけではありません。ですので、本コメントはこの問題に関する議論状況を説明するものとし、最後に、日本の実質法上同性婚が認められた場合の影響についてもコメントしたいと思います。

 

2. 婚姻の準拠法を適用ないし類推適用する見解

 同性婚は、今まで異性間のみに認められていた婚姻制度を同性間にも認めるものです。そのため、同性婚も婚姻そのもの、あるいは婚姻に類似する結合関係と考え、同性婚について婚姻に関する規定を適用ないし類推適用することが考えられます。そこで、まず一般的に婚姻の成立に関する準拠法がいかにして定められるのか説明します。

 この問題について規定を置く法の適用に関する通則法(以下、「通則法」という)は、婚姻の成立について、実質的成立要件の問題と形式的成立要件(方式)の問題とを分けて規定しています。婚姻を成立させるための届出や儀式のような外面的行為が形式的成立要件(方式)であり、それ以外の要件は実質的成立要件となります。同性婚との関係で主に問題となるのは実質的成立要件であると考えられます。

 実質的成立要件について、通則法24条1項は、「婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。」と定めています。例えば、日本人とドイツ人の婚姻の成立が問題となる場合、その日本人に関する要件は日本法により、そのドイツ人に関する要件はドイツ法により、それぞれ判断されるということです。ただし、婚姻の当事者双方に関わる要件については、それぞれの本国法が重ねて適用されます。

 この規定を同性婚について適用ないし類推適用する場合、どのように扱われるでしょうか。以下の2つの例について考えてみたいと思います。

 ①ベルギー人男性Aとオランダ人男性Bがベルギーで同性婚を締結した場合の、日本における同性婚の有効性。

 ②日本人男性Cとオランダ人男性Dがベルギーで同性婚を締結した場合の、日本における同性婚の有効性。

 ①において、同性婚が有効に成立しているかどうかは、Aについてベルギー法、Bについてオランダ法を適用することにより判断されます。ベルギーもオランダも同性婚を認めている国ですので、AとBがともに男性であること、すなわち、婚姻の相手が同性であることを理由に婚姻が成立しないということはないものと考えられます。よって、日本においても、AB間の同性婚は有効に成立したものと扱われうるでしょう(ただし、ABが日本に居住する場合など、事案と日本との関連性が強い場合には、後述する公序違反を理由として同性婚の成立が認められない可能性もあります)。

 これに対して、②の例では、Cの本国法である日本法が同性婚を認めていませんので、同性婚を認めるベルギーで婚姻を締結したとしても、日本においてはCD間の婚姻が無効なものと扱われます。なお、婚姻としては無効であるとしても、当事者間の関係が長期間継続している場合に、婚姻に準じる関係として保護が与えられる可能性は残されています。実際に、日本人同士がアメリカで同性婚を締結した事案において、同性のカップルであっても、その実態を見て内縁関係と同視できる生活関係にあると認められるものについては、それぞれに内縁関係に準じた法的保護に値する利益が認められるとした裁判例があります(宇都宮地裁真岡支部令和元年9月18日判決)。

 

3. 異性間の婚姻とは異なる方法により準拠法を定める見解

 以上のように、同性婚を婚姻と同じように扱うと、当事者の一方が同性婚を認めない国の人である場合には、常に同性婚は無効であると扱われることになります。同性婚を認めている国がまだ多いとはいえない現状において、同性婚を婚姻と同じように扱うことは、同性カップルを十分に保護できないという結果に繋がるでしょう。

 これに対して、同性カップルの保護という観点から、同性婚は婚姻とは異なる法的性質を持つ問題であると捉え、これについて異なる方法で準拠法を決めることが考えられます。そのような見解として、同性婚を挙行した国の法によって同性婚の成立が判断されるべきだとするものがあります。

 この見解によれば、先の①と②のいずれの例においても、同性婚を締結したベルギーの法によって同性婚の成立が判断されます。したがって、同性婚の当事者が同性婚を認めていない国の人である場合でも、同性婚が有効に成立しうるということになるでしょう。

 ただし、準拠法となる外国法を適用した結果として同性婚の成立が認められるとしても、②の例のように当事者の一方が日本人である場合など、事案が日本と関連性を有している場合には、同性婚の成立を認めることがわが国の公序に反する(通則法42条)とされる可能性があります。公序とは、外国法を適用した結果がわが国の私法秩序の中核部分をなす法原則や法観念に反する場合に、例外的にその外国法の適用を排除することであり、外国法を適用した結果の反公序性と、事案とわが国との関連性(内国関連性)の強さとの相関関係によって判断されます。日本民法上、婚姻が異性間のみに限定されている現状においては、同性婚を認める外国法の適用結果が反公序性を有すると判断され、内国関連性の強い②のような事案において、結果的に同性婚が無効なものとなるかもしれません。

 

4. おわりに

 以上、外国で締結された同性婚がわが国において有効なものと認められるかについての議論状況を紹介しました。現状においては、日本人が同性婚の一方当事者である場合、その同性婚は、同性婚が認められる国において締結されたとしても、日本においては有効なものと認められない可能性が高いといえます。

 このような結論は、まさに日本民法が婚姻を異性間のみに限定していることの影響を受けています。仮に、同性婚訴訟を経て日本民法上同性婚が認められるようになれば、国際的な同性婚の日本における扱いにも変化がありうるでしょう。まず、日本民法が同性婚を認めるのであれば、当然ながら、日本法が同性婚の成立について準拠法となる場合(例えば、②のような場合)にも同性婚が有効に成立することになります。また、外国法が準拠法となった上で同性婚の成立が認められる場合にも、その結論を公序違反として排除する可能性はなくなるでしょう。さらに、同性婚の準拠法を定めるルールにも変化がありうると考えられます。例えば、3で触れた見解は、同性婚が有効なものと認められやすくなるような準拠法の指定方法を採るものです。同性婚を日本民法上認めていない現状では、国際私法上、同性婚が成立しやすいような解釈も採用されがたいように思われます。しかし、日本民法上、同性婚を認め、同性カップルを法的に保護しようとするのであれば、国際私法上も同性婚について準拠法を定めるルールを設け、同性婚が成立しやすいように準拠法を指定し、同性カップルを保護するという流れになりやすいのではないでしょうか。

 なお、本コメントでは言及できませんでしたが、同性カップルの結合関係について、同性婚ではなく、登録パートナーシップが用意されている国もあります。登録パートナーシップには、婚姻と同等の効果を認めるものや婚姻よりも緩やかな結合関係を認めるもの、さらには登録パートナーシップを同性間のみに認めるものや異性間にも同様に認めるものもあり、さまざまです。このように各国の制度に等価性がなく、また、婚姻とは別の制度として用意されている登録パートナーシップについては、婚姻とは異なる性質の問題と捉え、とりわけその登録国の法を準拠法とすべきとする見解が有力に主張されていますが、同性婚の扱いと合わせて、なお議論があるところです。