ホルムズ海峡と有志連合

国際法学会エキスパート・コメントNo.2019-10

佐藤 量介(成城大学専任講師)
脱稿日:2019年12月27日

 

1. はじめに

 2019年7月、米国は各国に対し、ホルムズ海峡等における船舶の安全航行の確保を図ることを目的とした共同ミッション――「海洋安全保障イニシアティブ」(International Maritime Security Construct: IMSC)――への参加を呼び掛けました。報道にもあるように、いわゆる「有志連合(Coalition of the willing)」への参加を募るものであり、日本が参加する可能性も指摘されていたことから、多くの関心を呼んできました。ここで「有志連合」と聞いて思い出されるのは、米英主導の「有志連合」によって実施された2003年のイラク戦争でしょう。イラク戦争は、その国際法上の実施根拠に対する疑義から、現実政治においてもアカデミックな場においても、多くの批判を惹起した軍事活動であり、その否定的な評価と共に、「有志連合」の名も世間に浸透していったといえます。それでは、今回ホルムズ海峡等での実施が呼びかけられた「有志連合」と、イラク戦争を実施した「有志連合」は、その実態及び法的な評価において同じものなのでしょうか。そもそも、「有志連合」とは、法的に何を意味しているのでしょうか。本稿では、「有志連合」の国際法上の意味を確認した上で、「海洋安全保障イニシアティブ」を巡る法的な問題について確認していきます。

 なお、日本政府は、この「有志連合」には参加せず、独自の取組として自衛隊による情報収集活動を実施するとの立場を表明しています(2019年12月27日、自衛隊派遣を閣議決定)。

 

2. 問題の経緯

 ホルムズ海峡等と有志連合の問題は、イラン核合意を巡る米国とイランとの関係悪化と関連性を有しています。2000年代初頭に明らかになったイランの核開発疑惑を巡っては、英仏独の3か国(EU3)と米ロ中(+3)が主として交渉・協議にあたってきました。その外交努力の結果として2015年7月に最終合意に至ったものが、イラン核合意(包括的共同作業計画:JCPOA)であり、国連安全保障理事会も、同月にこれを承認する決議2231(附属文書としてのJCPOAを含む。)を採択しています。当該合意に基づき、イランの核開発問題が平和裏に解決されることが期待されていたところ、2018年5月にトランプ政権が一方的にイラン核合意から離脱し、対イラン制裁を開始したことにより、事態は一変しました。そして、米国がイラン産原油の全面禁輸を開始した2019年5月以降、原油タンカーなどの商船が攻撃を受けるという事案が続発したのです。

 5月12日、UAE沖でサウジアラビア籍原油タンカーを含む4隻が、6月13日にはオマーン湾で日本企業が運航するパナマ籍ケミカルタンカーなどが攻撃を受け、また6月20日には、ホルムズ海峡に近い空域において、イラン革命防衛隊が米国の無人偵察機を撃墜しました。7月4日、英領ジブラルタル沖においてイラン産原油をシリアに輸送している疑いのあるパナマ籍タンカーが、英国海兵隊によって拿捕される事案が発生。7月19日には、ホルムズ海峡において英国籍タンカー2隻がイラン革命防衛隊によって拿捕されたのです。

 ホルムズ海峡は、世界で海上輸送される原油の3~4割、日本へ輸送される原油の約9割が通過するという意味で、日本のみならず世界にとってもエネルギー供給の大動脈です。2018年7月、トランプ政権による核合意からの一方的離脱と制裁再開の動きに対し、イランのロウハニ大統領がホルムズ海峡封鎖の可能性に言及、イランの最高指導者であるハメネイ師もこれを支持したことから緊張が一気に高まったことがありますが、今回の一連の事態についても、ホルムズ海峡封鎖の可能性を懸念する声はあがっており、実際、原油価格急騰、保険料上昇、燃料費高騰による運航コストの上昇など、ホルムズ海峡を含む中東地域における船舶の航行リスクは増大しています。その上、9月14日にはサウジアラビアの石油施設がドローンなどの攻撃を受け、また10月11日にはイラン籍原油タンカーが2度の爆発に見舞われ炎上する事件も発生しており、状況は一層不透明化・不安定化しています。

 こうした状況に対し、攻撃の主体などが判明していないということはありますが、米国は、一連のタンカー攻撃にイランが関与していると主張しています。重要なシーレーンの安全確保という目的に加え、イラン封じ込めという思惑も絡み、今回の「海洋安全保障イニシアティブ」が提唱されるに至っているといえるでしょう。

 

3. 有志連合の国際法上の位置づけ

 冒頭にも触れましたが、「有志連合」という用語と印象深く結びつけられる出来事といえば、2003年のイラク戦争であり、またこの用語の使用は、イラク戦争を実施することの法的な根拠の疑わしさと何らかの関連性を有していたといえます。「有志連合」の国際法上の位置づけを確認する前に、まずは武力行使に関する現代国際法の枠組みを確認しておきたいと思います。

 武力行使の規制についての重要な法文書である国連憲章は、加盟国による武力行使を原則として禁止しています(憲章第2条4項)。その例外は、基本的には同じく憲章で明示された自衛権行使(憲章第51条)の場合と、憲章第7章に基づく措置(安保理が、第7章に基づき、加盟国に対して武力行使等の措置をとることを許可・容認するケース。いわゆる「許可」実行)の場合に限定されています。また、国際法上、正統政府による要請・同意に基づき、当該国の領域内で実施される軍事活動についても、その要請・同意の範囲内であれば国際法違反とは評価されないこともあります。したがって、これらの例外に該当しない限り、加盟国による武力行使は憲章違反・国際法違反となり、他方で、たとえどのような大義名分があったとしても、それ自体を根拠として、違法な武力行使が合法化されることはないといえます。

 このような武力行使に関する現代国際法の枠組みにおいて、米国は、自衛権の行使でもなく、また安保理決議による明示の許可を得ることもなく、大量破壊兵器保有やアルカイダとの関連性などを大義名分として、2003年3月にイラクへの戦争を実施しました。そして、その実施にあたり、単独行動主義との国際的な批判をかわすべく、行動を共にする「有志」の国々を募ったというのが、当時「有志連合」という用語が持ち出された背景でした。そうした背景を想起するならば、現代国際法の枠組み、そして国連という組織的枠組みの「外」において、その共同活動の正当化を試みようとしたことが、「有志連合」という用語を用いた動機として指摘できます。

 ただ、「有志連合」という用語それ自体は、こうした法的に疑義のある軍事活動に限らず、それこそ憲章第7章に基づき実施される許可実行においても用いられています。たとえば、2011年にリビアに対して実施された英米仏らによる空爆は、安保理決議1973の許可を受けて実施されたものですが、これを「有志連合」による行動としてとらえる声は少なくありません。また、イエメンの反政府勢力に対するサウジアラビア主導の「有志連合」による空爆作戦も、暫定政府による要請に応じる形で2015年3月から実施されていました。このほかにも、今回の「海洋安全保障イニシアティブ」と同じように海上多国籍ミッションを実施している「有志連合」があります。たとえば、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処のため、米国主導の第151連合任務部隊(CTF151)が活動しており、日本の海上自衛隊もこのCTF151に参加しています。CTF151では、指揮権は各国の持ち回り担当となっており、日本人司令官も当該多国籍部隊の指揮をとったことがあります。ちなみに、CTF151は、対テロ活動に関するCTF150、ペルシャ湾諸国の海洋安全に関するCTF152と共に、合同海上部隊(Combined Maritime Force: CMF)という多国籍パートナーシップの枠組みで実施されています。このCMFには現在33か国が参加しているわけですが、その意味では、「有志連合」は少数の国々による活動を特徴とするものでもありません。陸・海・空における大量破壊兵器等の輸送・拡散を阻止することを目指す活動であって、2003年に米国主導で始まった「拡散に対する安全保障構想(Proliferation Security Initiative: PSI)」に至っては、100を超える国々が参加しています。PSIに参加するには、PSIの目的や活動の基本原則を定めた「阻止原則宣言」を支持することが求められていますが、この宣言はあくまで政治的な宣言であり、PSI二国間乗船合意を別途締結しない限り、参加国に法的な義務は課せられてはいません。この点は、CMF参加国も同様です。

 このように、諸国が軍隊を用いて活動を行う場合であっても、「有志連合」という用語が明確な基準や定義に基づいて用いられているわけではありません。諸国によるアドホックな調整枠組みという特徴や、既存の法的・制度的規制を回避するという特徴が個々には見てとれますが、そうした特徴から一般的な定義を導き出すことは難しいというのが現状です。「有志連合」という不明瞭・不確定な概念を、政治的な「キャッチフレーズ」と捉える研究者もいます[i]。言い得て妙でしょう。いずれにせよ、「有志連合」それ自体に固有の法的意義は見出せません。そうである以上、「有志連合」と呼ばれる個々の活動の評価にあたっては、それがどのような法的な根拠に基づくのか、活動に際してどのような法的な規制と関係性を有しているのかという点を、慎重に確認していくことが必要といえます。

 

4. 「海洋安全保障イニシアティブ」と国際法

 2019年11月7日、「海洋安全保障イニシアティブ」の枠組みにおいて、「センティネル作戦」(Operation Sentinel)の開始が発表されました。本部はバーレーンに置かれ、参加部隊は「センティネル連合任務部隊」(CTF Sentinel)と総称されています。活動水域は、ホルムズ海峡、ペルシャ湾、イエメン沖バブルマンテブ海峡、オマーン湾であり、現在、米、英、豪、バーレーン、サウジアラビア、UAE、アルバニアの7か国が参加しています。米軍中央司令部によれば、このセンティネル作戦の目標は、これらの活動水域における海上の安定の促進、船舶の安全通航の確保、国際水路における緊張緩和とされ、基本的には、参加各国が自国籍船の護衛を可能とする多国籍枠組みであって、米国が、その指揮と艦船等派遣を通じて、各国の警護活動を支援する体制とされています。具体的には、共同作戦像を策定すべく、バーレーンの指揮本部が関連情報を集約・連携し、警戒・監視・保証を通じて当該地域の安定を確保できるよう、各国部隊への情報提供などを行います。また、米軍の大型艦(Sentinels)が決定的に重要なチョークポイントの監視を行い、小型艦(Sentries)がチョークポイントをつなぐ重要な航路帯のパトロールを実施し、さらに航空監視活動も行います。

 したがって、対テロ戦争やPSIに関連して行われる臨検・拿捕・没収等に関する海上阻止(maritime interdiction/interception)を実施することは想定されていません。参加各国が米軍の指揮統制下に置かれるというよりは、各国部隊が米軍の支援を受けつつ自国籍船を護衛する多国間協調・調整枠組みといえるでしょう。

 このような枠組みにおいて活動の開始が発表されたセンティネル作戦ですが、CTF Sentinelの警護活動については国際法上いくつかの論点が存在しています。

 第1に、ホルムズ海峡の国際法上の位置づけについてです。ホルムズ海峡は、最も狭い部分がイランとオマーンの領海から構成される海峡ですが、イランは、同海峡を国連海洋法条約上の「通過通航権」(第38条)の行使が認められる「国際海峡」(第37条)と位置づけることに反対しています。イランは、同海峡の自国領海部分では、領海のその他の部分と同様に、通過通航権よりも制限的な「無害通航権」(第17条)が認められるに過ぎないとしています。また、イランはそもそも国連海洋法条約を批准しておらず、国際海峡制度の慣習法性も否認しています。そして、イランもオマーンも、自国領海における軍艦の通航について事前許可制を採用していることから、CTF Sentinelによる警護活動への影響が懸念されることになります。他方で、米国は、国際慣行として国際海峡及び通航の権利が確立されている点を根拠にイランの見解を否定しており、またEU等の諸国も、国際海峡としての法的地位を否定するイラン国内法を国際法違反であるとして抗議しています[ii]

 ホルムズ海峡の法的位置づけを巡っては、このような見解の対立が存在していますが、ただ、イラン・オマーン両国が事前許可を得ていない軍艦のホルムズ海峡通航を事実上黙認してきたことからすれば、同海峡の法的位置づけを巡る見解の相違も、さほど問題を生じさせないかもしれません。2011年12月、イラン海軍の最高司令官が「ホルムズ海峡を封鎖することはコップの水を飲むより簡単」と発言したことに対して、米国はイランに警告を発し、その後、ペルシャ湾海域における航行の自由の確保を目指し、英などの国々と共に同海域における軍艦の航行を幾度も実施しました。こうした動きに対して、イランも、訓練実施等の示威行為によって対抗を試みましたが、軍艦の航行を実力で阻止することはありませんでした。

 第2に、自衛権の行使についてです。具体的には、冒頭に紹介した事例のように自国籍商船への攻撃が発生した際、これを護衛している各国が、武力行使によって対応することを個別的自衛権の行使として法的に正当化できるのか、という問題です。

 「国際法上の集団的自衛権」に関するエキスパート・コメントにおいて説明されているように、国際法上、自衛権の行使にはいくつかの法的要件があります。本事例でまず問題となるのは、「武力攻撃」要件です。より具体的には、商船に対する攻撃が、「武力攻撃」に該当するのかという点と、その攻撃が、自衛権の行使主体である「国家」に対して向けられたとみなせるかという点の充足が問われることになります。これらについては、国際司法裁判所(ICJ)において争われたニカラグア事件(ニカラグア対米国)およびオイル・プラットフォーム事件(米国対イラン)でも争点になりました。後者の事件においてICJは、軍艦ではなく商船に対する攻撃であっても、特定国の国旗を掲げ、同船を特定目標として攻撃がなされた場合に、商船に対する攻撃が当該旗国に対する武力攻撃に該当する可能性を示唆しています。ただ、これが自国籍の商船一隻への攻撃であっても武力攻撃に該当すると考えるのか、それとも複数の自国籍商船に対する攻撃を以て該当すると考えるのか(あるいは、自国籍商船隊全体に対する攻撃とみなせる場合に該当すると考えるか)については、研究者の間でも議論を呼んだところです。

 実際には、これらの要件が充足する場合であっても、個別的自衛権に関する他の要件(必要性要件、均衡性要件、安保理への報告義務等)についてもその成否が問われることはいうまでもありません。先のタンカー攻撃事案において、その攻撃主体が判明しているとは言い難い状況からすれば、CTF Sentinel参加国が武力攻撃の被害国として、その攻撃に責任を有する特定国に対して自衛権を適切に行使することのハードルは、決して低くはないといえるでしょう。

 

5. おわりに

 今回取り上げたホルムズ海峡等に関する「有志連合」は、安保理決議に基づくものでもなく、また条約を介して成立したものでもありません。他方で、海洋法上、公海または国際海峡上で軍艦が自国籍船を護衛する行為は、それ自体違法なものではありません。公海の秩序維持ルールとして、旗国主義がありますが、これに抵触するような他国籍船への海上阻止活動を行うものでもありません。したがって、今回の「有志連合」は、合法性という点で、その設置及び活動に国際法上の疑義が呈されていたイラク戦争時の「有志連合」とは大きく異なるといえるでしょう。

 他方で、CTF Sentinel参加国が護衛する商船が何らかの攻撃を受けた場合に、これに対する自衛権の行使を合法的に行うことのハードルの高さも浮かび上がっています。参加各国は、実際にこうした事案が発生する場合を想定し、自衛権の発動要件の充足可能性を精査しておく必要があるでしょう。また、米国・イラン関係の歴史的経緯(1979年のイラン革命と、それに続く在テヘラン米国大使館員人質事件、1988年の米国によるイラン航空機撃墜事件など)と現在の対立状況を勘案するならば、法的には的確な評価が難しい不測の事態に陥ることも想定しておく必要があるでしょう。「有志連合」それ自体に固有の法的意義が見出せないとしても、「有志連合」と称する国々によって実施された軍事行動に、国際法上の疑義が生じたこともまた確かだからです。今回の「有志連合」がどのような法的評価を得ることになるのかについては、実際に展開される活動内容と事態の推移次第といえるのではないでしょうか。

 

[i] Alejandro Rodiles, Coalitions of the Willing and International Law: The Interplay between Formality and Informality (Cambridge University Press, 2018), pp. 1-7, 10-16.

[ii] 以上の点については、中谷和弘「ホルムズ海峡と国際法」坂元茂樹(編著)『国際海峡』(東信堂、2015年)129-155頁をご参照ください。